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◆暗礁に乗り上げた統一EU



 (世界日報 2008/6/20)


   アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき

  リスボン条約否決の民意  難解さと市民不在に不信感


■EU憲法草案から連続の否決

 六月十二日、アイルランドで欧州連合(EU)のリスボン条約批准を巡る国民投票が行われた。結果は賛成が46・6%、反対が53・4%であった。二十七の全加盟国が批准しない限り条約は発効しないことから、条約を巡り唯一国民投票を実施したEU人口の1%にも満たない国が、EU全体に大きな衝撃を与えている。しかしアイルランド人の見解は多くのEU市民の気持ちを表してもいる。

 六カ国で設立した欧州共同体は今や二十七カ国に拡大し、歴史や経済の発展段階の違いなどから政策で一致することが難しくなっているばかりでなく、外交、移民問題、安全保障、エネルギーなど、EUとして統一政策を打ち出す必要がある問題が増えている。EUのさらなる統一を図り、EUとしての政策を打ち出すことによりグローバルなステージでも、より大きな影響力を発揮することを目指し、二〇〇四年六月には欧州理事会でEU憲法草案が採択された。

 しかし、この憲法草案は二〇〇五年春にフランスとオランダで行われた国民投票で批准が否定されたことから、より簡素でEUの効率的運営に焦点をあてたリスボン条約が提示された。関係者が今度こその批准を目指し、内容および批准手続きにもあらゆる知恵を絞った、いわば「プランB」であっただけにEUおよび各国首脳は、アイルランドの国民投票の結果を受けて「プランC」はない、と呆然としている。

 憲法および条約拒絶の理由は複雑であり、中味を正確に把握せず誤解に基づく部分もかなりある。フランスでは、より市場の自由化が進みアングロサクソン的な「ウルトラ・リベラル」で、一般市民に、より苦難をもたらす制度が持ち込まれるという宣伝が反対票に大きく貢献した。オランダでは、東欧からの移民が怒涛のごとく流れ込み、失業や人種問題がさらに深刻になると信じられた。

 アイルランドでは、条約を批准すると中絶が認められるようになり、税金が上がり、アイルランドの中立政策が壊されると恐れられた。


■何故憲法や条約を拒絶するか

 オランダの外交官によればEU憲法にはそれまでの条約にない新たな条項は10%あまりしかなく、それまでの約束事の公式の確認のはずであった。しかし憲法が示すEUの方向性に対する実質的な疑問ばかりでなく無知や誤解、反対派の宣伝の上手さも手伝い、フランスでは投票者の55%、オランダでは62%が反対票を投じた。

 リスボン条約は統一市場や統一通貨など目新しい制度が生まれるわけでもなく、刺激のない管理運営効率化推進文章であった。しかし投票率53・13%と多くのアイルランド国民が関心を示した投票の結果は、批准拒否票が承認票に十万以上の差をつけた。

 三カ国ともに市民の側に無知や誤解があるのは間違いない。またフランスでは高い失業率、フランスやオランダでは深刻な移民問題を抱え、今回のアイルランドでは繁栄していた経済に影がさしているという状況下、各国の国民が生活への不安や政府への不信感をEUにかかわる国民投票という場をかりて表現した、という側面がある。

 しかし国民の反EU表明の原因はそれだけではない。反対票を投じたアイルランド国民は、条約の中味が全く分からない、政治家やビジネス界が結託して条約を批准させようとしているのが気に食わない、という理由をあげた。

 EU憲法は憲法そのものが三百四十九ページ、付属文章が三百八十二ページ、宣言文言が百二十一ページと合計八百五十二ページ、簡素化された条約ですら二百八十七ページである。また内容は非常に複雑で、一般市民どころか、担当の役人ですら完全に理解するのは難しいようである。アイルランドの投票日の新聞によれば、条約を説明するためにテレビに登場した役人が技術的な質問の回答に苦しみ、資料を必死にめくる間なんと二分半の沈黙が流れてしまった。

 憲法や条約は長文で複雑で専門的知識も要する。だからこそ政治家や官僚にまかせるべき、と政治家は述べる。しかし、これがさらに国民の不信感をあおってきた。EUとしてかかわる問題や加盟国が増えるに従い、統一見解や政策を形成するのは難しく、多くの妥協や玉虫色の文言を活用せざるを得なくなる。


■困難でも市民の理解に努力を

 条約が多数結ばれてきたが、市民が意見を求められることはほとんどなかった。一般市民から見れば、理解できないことを政治家や官僚が勝手に進めており、その中味は多くの場合、自国や自分のためにはならない、という気持ちが膨らむ。政府が経済秩序など国民が受け入れがたい政策を売り込むために、ブリュッセル(EU本部の所在地)という「お上」を利用してきたことが、さらにEUに対する不信を深めた。

 わずかシン・フェイン党を除いて政財界がこぞって条約批准を支持したことへ反骨精神旺盛なアイルランド人の多くが本能的に反発した。しかしこれはフランスやオランダの国民、そして、いずれの場合も国民投票の機会を与えられなかった多くのEU市民のエリート指導者層に対する不信感を如実に表している。

 いかに困難であろうと各国政府に市民の理解を得る努力、不安や不信に真摯に応える姿勢がなくては、EUとしての声を形成し、国際舞台で影響力のある存在になることはできない。
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by sakura4987 | 2008-06-24 13:02

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