◆【産経抄】 (産経 2008/8/25)
交通事故で亡くなったマコに懇願され、1日だけ入れ替わって幽霊となった少女、ピコがたどりついたのは、霊界空港だった。上演1000回をこえる「劇団四季」のミュージカル『夢から醒(さ)めた夢』の一場面だ。
待合室にいる幽霊たちのパスポートは3種類。「光の国」行きの白いパスポート、「地獄」行きの黒いパスポート、そしてグレーのパスポートだ。罪の汚(けが)れが洗い流されるまで、空港で働き続ける幽霊たちが持つ。その色は、生前人のために尽くしたか、あるいはどれほど人を悲しませたかで、決まる。
先週末、知的障害者を狙って金品を奪っていた東京都青梅市に住む中学3年生ら8人の逮捕が、報じられた。少年たちが、このミュージカルを観(み)ていたら、と思わずにはいられない。容疑のひとつは、路上で障害のある男性に暴行を加え、現金を奪ったというものだ。
その後も呼び出し、口止めして、携帯電話などを取り上げていた。犯行の悪質さもさることながら、「いじめて何が悪い」との供述に衝撃を受ける。犯行が、被害者とその家族、知人をどれほど傷つけ、悲しませたのか、想像することができないらしい。
人は現世で裁かれるだけではない。霊界研究家として知られた俳優の故丹波哲郎さんは、こんな考えが広まれば犯罪は少なくなる、と話していた。少年たちはパスポートの色を気にするようになるだろうか。
渋谷駅では79歳の女が、「金もなく、事件を起こせば、警察が何とかしてくれる」と、通行人を刺した。何が加害者をそこまで追い詰めたのか。『夢から醒めた夢』では、最後に善意が報われるが、霊界空港の役人、デビルのせりふが妙に耳に残る。「どいつも、こいつも自分のことばっかり!」

