◆【次代への名言】藤田東湖
(産経 2008/10/2)
■「土地や人民を異国に奪われるは日本の恥辱。土地一寸、人間一人たりとて死守すべし」(藤田東湖『回天詩史』)
藤田東湖(1806~55)は、幕末において尊王攘夷(じょうい)の震源となった水戸学の重鎮。『回天詩史』(原文は漢文)は40歳を目前にした東湖の自叙伝的作品である。
北からの脅威はきのうきょうにはじまったことではない。江戸時代も後半に入ると、ロシア船が鎖国中の日本を挑発するかのように北海道の近海に出没していた。冒頭のことばは、ロシアの北海道進出を懸念するくだりにある。厳密には3代将軍、徳川家光の発言だが、国土を守る警句として引用されている。
「舜(中国の伝説の名君)でさえ己に頼むことなく、必ず良臣の力を借り、孔明(三国時代の名軍師)でさえ独断はせず、多くの議論を聞いた。しかし、凡人ほど賢人に任せることなく、取るに足らぬ自分の智力(ちりょく)で国を治めようとするが、成功しない」
東湖は別の著作『弘道館記述義』でこうつづる。その警告の刃は『回天詩史』同様、現代にも向けられている、と思う。
旧暦で153年前のきょう、「安政の大地震」が江戸を襲った。当時、江戸詰だった東湖は家屋にいた母の命を救い、自分は圧死した。幕末の志士のさきがけだった東湖は、憂国の人、そして「孝」の人でもあった。