◆【話の肖像画】人生、これ修行(1)南無の会会長 松原泰道さん
(産経 2009/2/17)
■依頼心捨て逆境と“心中”せよ
--著作は130冊以上、昨年は作家の五木寛之さんとの対談集「いまをどう生きるのか」(致知出版社)を出版しました。失業、リストラといったニュースばかりの最近の世相をどうみていますか
松原 “100年に1度の危機”といわれていますが、昭和の大恐慌の方が今以上にひどかったでしょうね。私は早稲田(大学)に、飯田橋の駅で乗り換えて通っていましたが、父子が駅で抱き合って飢え死にしている姿を見たことがありました。今は飢え死にすることはないでしょう。
それから確かに今は「お先真っ暗」かもしれませんが、逆境にあっても伸びる人は伸びるのですよ。左遷、飛ばされることも逆境です。逆境のときをどう生きるか。ヤケになるか、前途を悲観してダウンしてしまうか、逆に立ち上がるか…。
--逆境を乗り越えていくということですか
松原 いいえ、「乗り越えて」とは言っていませんよ。越えられるくらいなら逆境じゃありません。苦しみの中に飛び込んでしまう、逆境と“心中する”のです。それ以外に苦しみを逃れることはできません。
--飛び込んでいく?
松原 江戸時代に白隠慧鶴(はくいんえかく)(臨済宗中興の祖)という名僧が駿河におりました。富士山が爆発したり、飢饉(ききん)があったりした時代、白隠さんはふすま一枚くらいの大きな紙に、「南無地獄大菩薩(ぼさつ)」と書いた軸をかけた。そんな仏がいるわけはありません。
禅では依頼心を捨てることが大事です。過去のぜいたくな生活への執着も捨てる。最後は自分が奮起する以外に解決の道はない、と知るでしょう。
--確かに政府やボランティアが「なんとかしてくれる」という人もいます
松原 依頼心を捨て、裸一貫、捨て身になって生きていく。「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という言葉もあります。追い詰められたときに「助かろう助かろう」とするのではなく、いちかばちかで自分を投げ出してしまうと救いがある、ということですよ。
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【プロフィル】松原泰道
まつばら・せいどう 明治40(1907)年、東京都生まれ。早稲田第一高等学院、早稲田大学文学部卒。岐阜県の瑞龍寺専門道場で修行。昭和26年、臨済宗妙心寺派教学部長に就任。52年まで、東京都港区の龍源寺住職。47年に出版した「般若心経入門」はベストセラーに。宗派を問わず広く仏教を学ぶための「南無(なむ)の会」会長。101歳。

